ネミー通信

いつもねむいかおなかへってるかのどちらか

敬老の日/「おばあちゃんはわたしを忘れてしまう」わけじゃない

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祖母が認知症になって二年も経ってから、
ようやくわたしは祖母に会いに行きました。

強い日差しのまだ残る9月、
祖母はわたしに「明けましておめでとう」と言い、
祖母が子どもだった頃の話をたくさんしました。
わたしが帰る時間と場所を何度も尋ね、
わたしの履いていたチュールスカートをしきりに同じ言い方で誉めました。
時々わたしの名前を間違えましたが、正しい名前でも呼び、
孫であることはわかってくれていました。

祖母と話すのはとても楽しくて、
怖がらずにもっと早く来ればよかったと、
すとんと落ち着いたような安心感でした。

わたしとしてはかなり思いきって会いに行ったのですが、
祖母が認知症になってから二年も経つ間に、
祖母のいる大阪へ行くチャンスなら本当は幾らでもありました。
行けなかったのではなく、
行かなかったのです。

(続きます)

「忘れられる」ことへの恐怖

経過については母から事細かに伝え聞いていました。

  • おばあちゃん、最近ちょっと忘れっぽいのよね。
  • やっぱりおばあちゃん同じものばかり買ってきてしまうって。
  • 物忘れ外来ってどうやって連れていったらいいと思う?
  • やっぱり認知症だって!
  • でも高齢だからひどく進行する前にお迎えが来るかもって先生が言ってたわ。
  • 来月からグループホームに入ることになったよ。
  • 施設の職員さんがすごく感じがよくってね…

でも会いには行かなかった。

すごく勝手な話ですが、最初に認知症の疑いが出た時からもう滅茶苦茶に怖かった。
いずれ「おばあちゃんはわたしのことを忘れてしまう」のだと思ったから。
会って、それが逃れられない事実になってしまうのが怖かった。

「誰かに存在を忘れられる」という体験は、
大概はひっそり知らぬ内に起こっているものであって、
面と向かって味わうことはなかなかないと思います。
少なくとも、わたしは今まであまり経験していません。
忘却は最高の復讐、とは言い得ているフレーズで、
忘れられた人にとって相当ショックな体験になるはずです。
「あなた誰だっけ」が、しかも身近な人から投げ掛けられるとしたら
シンプルに怖い。

でも、「忘れられるかもしれない」という恐れは
祖母の状態にそぐわない捉え方だったかなと今は思っています。

たぶん、わたしを忘れ去るわけじゃない

母によれば、十年以上祖母と会っていなかった親族が施設を訪れた際、
その人が誰なのか、説明されても祖母はよくわかっていなかったそうです。
日頃から祖母はその親族の名前を口にしていたにも関わらず。
「たぶんだけどね」
とその場に付き添った母はわたしに言いました。
「おばあちゃんの記憶の中のその人はすごく若いか何かでイメージが止まっていて、
存在は知っていて名前も出てくるのに、今ここにいるその人の存在とうまく結び付かないのよ」

認知症についてきちんと学んだわけではないので、
全ての方がそうだとは言いませんが、
わたしの祖母の場合、母の言っていることは
すごく筋が通っているんじゃないかと腑に落ちました。

祖母が「あなた誰?」と面前のわたしに問う日が来たとしたら、
「わたしを忘れた」わけではなく、
「わたしのことが誰なのか結びつけられない」方向に行ったのだろうと少しは納得できそうです。
記憶から消えるのと、今ここと結び付かないのでは
全然違う気がする。
できれば、問うことすらできなくなっても、ずっと祖母の中にわたしが残っていたらなあと思ってしまいます。

今はまだ、祖母の記憶の中にいるわたしと、
目の前のわたしが結びつく。
でもアラサーのわたしに「新学期の準備は進んでるの?」と心配してくれていたので
わたしという孫の強いイメージは心配をかけまくった学生のところで固定されているのだな。
次に会う時はかなり危ういかもしれません。

老いを受け入れることって難しい

学生の頃、道で偶然前を歩く痩せた背中の老いた男性を追い抜いて、
その男性が父だと気付いた時、
ショックでたまらなかったのを思い出します。
老いていつかはいなくなるという当たり前のことが、
なかなか消化できなかった。

それからわたしもいくらか歳をとり、
親を始め身近なひとの老いを実感するとき、
以前より少しは素直に受け入れられるようになりました。
でもやっぱり今も根本的には理解できていなくて、
人が老いること、刻々と変化していくこと、
いなくなるとはどういうことか、
明確な答えが出なくてもずっと考え続けていくんだと思います。

もちろんわたし自身も老いてきているわけで、
歳を重ねることを劣化なんて言わずに、
年齢それぞれの自分をできるだけ好きでありたいと心底思っているところ。
これから祖母に手紙を書きます。


今週のお題「おじいちゃん・おばあちゃん」