ネミー通信

いつもねむいかおなかへってるかのどちらか

東京マッハVol.21「三つ編みを解いて忘れる櫻貝」@浅草東洋館

東京マッハというイベントについて

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先週末(H31.3.10)東京マッハVol.21に行って来ました。
東京マッハは、千野帽子さん(文筆家)/長嶋有さん(小説家)/米光一成さん(ゲーム作家)/堀本裕樹さん(俳人)という豪華メンバーで行われる、
トークライブ形式の公開句会イベントです。
そして今回のゲストは小林エリカさん/岸本葉子さん。
メンバーとゲストが投句して、選句は観客も行うので、観る方もただ観るだけでなく参加できる「公開句会」です。

わたしは初めて行った約2年前のマッハ@新宿以来の参加。
当時は(俳句…とは…575のあれだよな…)という状態でした。
ただ長嶋有さんの小説は好きで読んでいたので、
長嶋さん主催の俳句同人「傍点」に参加している友人から、面白いイベントがあるよ~と誘ってもらったのでした。

それがほんとに面白かったんだな。俳句のはの字もわからんけど大丈夫かいなという不安は完全に払拭。
俳句の知識がなくても軽妙なトークを聞いているだけでも楽しいし、
何となくでいいから惹かれる句を自分なりに選んで投票することでイベントに参加できて、
壇上の方々の選評を聞いて「そういう読み方ができるのか!」と鑑賞を深められました。

つまり、東京マッハがわたしの俳句原体験のようなもの。
最初からわたしにとって俳句が「お年寄りのやってる渋いアレ」ではなく
「心底かっこいい短詩」「刺激的な言語ゲーム」だったのはそのおかげなのかもしれません。

(以下、つづきます)

選んだ句の紹介

ツイート等での紹介OKとのことだったので、
勝手ながらわたしのいただいた句を紹介させてください。
並選6句(好きな句:順不同)、特選1句(ベスト1)、逆選1句(文句をつけてやりたい句)です。

○並1

  • 射的にてキャラメル倒す暮春かな (岸本葉子

壇上の選者が並選2人と逆選2人に割れた句。
倒れたキャラメルの音(ぱたん)と「暮春」が響きあっていていいなーと思ってわたしは選びました。
逆選にした選者の評は、「にて」が報告っぽい、甘すぎる・レトロすぎる、描く焦点が定まらない…という意見。
でも、季語「暮春」(春の終わりのこと)が、平成の終わりを思わせる見方もできる、
それは今だからこそ、この句が今ここで読まれているからだという一歩進んだ鑑賞で締められました。

○並2

  • 顎のせて天板広し春炬燵 (長嶋有

この日一番人気の句でした。
春炬燵(春になっても出しっぱなしになっている炬燵)の気の抜けた感じと
のっそり顎をのせている発話者がよく合っていますよね。
そして炬燵に顎を乗せたら目線が変わってどんなに小さな炬燵でも確かに天板広く感じるわ!という実感。
選評ではアンニュイな、愁いのある空気感も絶賛されていました。
岸本葉子さんが「天板が広いのは春炬燵だからこそ、冬だったらミカンとかリモコンとか色々置いてあるから」と
おっしゃっていたのはすごく鋭い読みだなと感心しました。
(春は春でたぶん吸入器とか置いてあるよ!という返しも面白かった)
そういえば2年前の東京マッハでも長嶋さんは春炬燵の句を詠まれていたことを思い出します。*1

○並3

  • 深空より降りくる蝶のまた空へ (堀本裕樹)

壇上の選者からは選が入りませんでしたが、
読んだときの響きがすごく綺麗、正統派で美しい作りで好きです。関西風に褒めると「シュッとしてる」。
蝶のひらひらとした動きが見えるのと、
発話者と蝶との距離感(近くなって、離れて)の動き、
空へと向かっていく蝶から見た視線だとだんだん発話者が小さくなっていくような、揺れる感じが面白いなと思って選びました。
深空から降りてきてまた空へ向かっていく、何だか天の使いみたいな神聖な感じすらします。
空の深い青さと蝶を見上げた時のシルエットが対比されるのもすてき。
先生!選ばせていただきましたよ!!※堀本ビンゴ大会ではない

○並4

  • フリージア香るやワルツ・フォー・デビイ (堀本裕樹)

「ワルツ・フォー・デビイ」はジャズの曲ですよね、というくらいしかわからなかったのですが
ピアノの音色とフリージアの香りから漂ってくる可憐さに惹かれ、
中七→下五への句またがりがジャズっぽい(?)と思いました。
作者自解によると、フリージア花言葉は「あどけなさ」「親愛」。
Waltz for DebbyはBill Evansが2歳の姪に贈った曲なのだそうで、なるほど響き合うところがあります。
(これも先生の句だったよ※堀本ビンゴ大会では以下略)
www.youtube.com

○並5

  • 愁眉めく遠きつばめとなりにけり (堀本裕樹)

めちゃくちゃ渋かっこいいじゃん…堀本先生かな…と思いながら取った。
正解でした。※堀本ビンゴ大会以下略
「遠きつばめとなりにけり」がとにかくいい。
「なりにけり」というのは、今まで意識の外にあったものが自分の認識の範囲に入って来た時にまさにその時にハッと気付いた詠嘆を表す、
という解説を最近本で読んで*2わたしもハッとなりにけり、のですが、
「遠きつばめとなりにけり」だから、つばめをずっと目で追っていたわけではなくて、
ぼんやりしていて、ハッと気付いたらつばめが遠くなっていたんだなと。
何を考えていたのだろうかという想像が掻き立てられます。
「なりにけり」には情報がないようでいて余裕や余韻があって、つばめとの距離感も感じさせる。
つばめって(わたしの中では)すっと飛んでいく爽やかなイメージですが
この句ではそうではなく何処か翳っている、愁眉めいて見える。何か愁うことがある、春の愁いを感じる句です。

○並6

米光さんの逆選が一つ入っていました。
会場が浅草だったので、神谷バーで飲める電気ブランを使った浅草の挨拶句。
無季の俳句でしたが、恋の予感からどことなく春っぽく感じられました。
米光さん曰く「いつ恋になるとも知れず」が「月9感ある」。
月9感、言われてみればなるほど…タイトルが「いつ恋」と略されるドラマのような(笑)
電気のしびれる感じと恋という言葉が合っているなと勝手に思ったのですが
調べてみたら電気ブランの「電気」は本来そういう意味じゃないのですね。*3

☆特選

  • モルタルの銀の大地に蟇出でよ (堀本裕樹)

これは小林エリカさんへの挨拶句だったそうです。
そのことには全く気付かなかったのですが、圧倒的な存在感だったので特選に。
モルタルで固められた、しかも完全に覆われている銀色の大地。
人工的な潔癖さ、生命感の全くない地面が広がっていることが伝わってきました。
命から断絶された大地に、作者は蟇(ひき)出でよと言う。
出でよと言うんだけれど、そう言うからこそ、もはや蟇は出てこないのだろうな、ということがわかる。
同時に、かつては生き物がそこにいたことも。
時間の流れと大地に大きな変化があったことも感じられる。
やるせなさ、静かな絶望みたいなものが見えました。
…というところで、小林エリカさんの個展から着想を得たとのお話を聞いて納得。

×逆選

正直どの句も素敵だったので、意味が掴みにくかったこの句を渋々逆選にしました。
テレビの画面に食われるバッファロー(自然ドキュメンタリーの番組)が大写しになっている様子だったそうです。
お雛様とバッファローのミスマッチ感が面白い一句でした。

また次回!

平成最後の東京マッハでした。
今度は新元号で今年中にもう一度やりたい!との千野さんのお言葉があったので
近いうちに開催されたら嬉しいな、また参加したいです。
今回は浅草の東洋館が会場で、飲み食いしながらのゆるっとした空気感が心地良くて、
結社の方々と早めに集合して浅草寺ミニ吟行&ミニ句会ができたのもとても楽しかった。
今度はどこで開かれるのかしら。

*1:「ほうと聞く祖父の浮気や春炬燵」。この句もすごくよかった

*2:中岡毅雄「NHK俳句 俳句文法心得帖」

*3:電気ブラン - Wikipedia